もし、あなたが「料理で人の心を癒す物語」に惹かれるなら、小川糸の『食堂カタツムリ』はきっと特別な一冊になるはずだ。
主人公の倫子は、恋人に全財産を持ち逃げされ、心の拠りどころだった東京の生活を失う。傷心のまま故郷へ戻った彼女は、小さな食堂「食堂カタツムリ」を開く。そこでは、一日一組だけの特別な料理がふるまわれるのだ。倫子は、食べる人のことを想いながら、丁寧に料理を作る。すると、不思議なことに、その料理は食べた人の人生にそっと寄り添い、変化をもたらしていく。
本書の魅力は、何と言っても『「食」の描写の温かさ』にある。オーダーメイドの料理が、まるで魔法のように登場人物たちの心を解きほぐしていく様子は、読んでいるだけで優しい気持ちにさせてくれる。また、物語の根底には、母と娘の確執、故郷との向き合い方、失ったものを取り戻す過程など、深いテーマが流れている。
じんわりと心に染みる物語を味わいたい人、料理の持つ力を信じたい人に、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。読み終えた後、きっと大切な人のために料理を作りたくなるはず。
